Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

  “お留守番”
 

いよいよ秋も深まって、野辺のススキも穂をふかふかとふくらませてる。
お山の錦もその彩りを風の吹くごと少しずつ深めており、
カエデの朱金も今や濃紅。
ツゲの蘇芳にサクラの深紅、銀杏の黄金に蔦の鬱金と、
錦糸の綾色には限りなく。
はやばやと裸になった樹々もまた、
夕暮れどきの茜の中では趣きのある影絵になっていて。
里の田畑は稲穂を刈られての丸裸。
冴えた空気のその中を、時々通るは からっ風。
ひゅーるる・ひゅるると梢を鳴らし、
河原の茅をかさこそ鳴らし。
お耳をぴょこりと震わすと、小さな仔ギツネ、お鼻を立てる。
ふわふわお尻尾、風に揺らして。
空をゆく雲、見上げてござる………。





            ◇




  「ん〜っとね、こっち。」
  「あ、また当たりだ。」


小さな坊や、両手をついて、濡れ縁に半ば這うようにしているのは、
向かい合う瀬那が板の間へと伏せた手のひらの間近まで、
丸ぁるいお顔を寄せるため。
つんと立ったる小さなお鼻がくっつくほども、
お顔を寄せるのは ずるくないかと、
そんな細かいことまで言わないセナなのは。
彼自身がおおらかな性分
たちをしているのとそれから、

  “くすぐったいやvv

触れそうなほど間近になるお顔からの微熱や、
一丁前にも う〜んむ〜んと唸っている何とも愛らしい懸命さが、
見ていて何とも楽しくってしようがないせいもある。
そんな坊やが、小さな小さなお手玉みたいなお手々を伸ばすと、

  「こーっちvv
  「ありゃ、また当たった。」

指差された方はやっぱり当たり。
わ〜い♪とパチパチ、嬉しそうに手を叩く坊やであり、
どんなに手を工夫してみても、何度やっても見事に当たる。
それは上手に、相手からは見えないようにと伏せているのにどうしてだろか。
“お館様だって こうまでお当てじゃあなかったのにね。”
当ててごらんと隠しているのは、いつぞや進さんからいただいた玻璃玉で、
そもそも さほどに匂いがつくようなものでもない筈なのに。
「何で判るの? 匂いはしないはずなのに。」
単純に“不思議だなあ”と思ってセナが訊けば、

  「によい、すゆ。」

あらあら、くうちゃたら言っちゃてるの。え?と眸を丸ぁるくしたセナへ、
「せ〜なのによいと、そえから。ちゅきがみの によい、すゆ。」
腰には“ぐう”をあてがって、むんとお腹まで張っての大威張り。
凄いでしょうなんて鼻高々な仔ギツネさんへ、
「…せめて“進さん”て呼んであげてよ。」
まったくです。
(苦笑)



昼下がりから二人、陽だまりにて何かしら、
手遊びや当てっこをして過ごしている様は。
毛並みを温
ぬくめての陽なたぼっこを満喫している、
幼い仔猫の兄弟のようにも映り。
おやつを運んで来た膳賄いのおばさまを、
あらあらvvと微笑わせるには十分な愛らしさ。
「今日のは甘煮にした山鳥のそぼろあんですよ。」
「うわいvvvv
仔ギツネのくうちゃんが、野菜や穀類では消化出来ないという、
致し方ない事情あってのことではあるが、
そのまま茹でカブラにでもかければ立派な御膳にもなりそうな“おやつ”。
熱つ熱つのところを厚手の鉢に取り分けていただいたの、
丸い木の匙で掬っては、ふうふう吹いて。
「おーしーvv
「そうだね、美味しいねvv
あんの絶妙な甘みが後を引き、思わずほころぶお口とお眸々と。
暖かいおやつでお腹も頬っぺもほこほこ暖まると、
くあぁと欠伸を洩らす くうちゃんなのもいつものこと。

  『あんまり贅沢はさせねぇでほしいんだがな。』

そういや、いつだったか黒の侍従さんがそんな言いようをしてらして、
『この頃じゃあ、火を通さない魚を喰わなくなっての。』
『ほほぉ、それはまた口が肥えたものじゃの。』
『ますますのこと、自然へ返せなくなっただろうが。』
誰だったかの、情にほだされず自然に任せて、
可哀想でも見殺しにすべきなんだなんて
偉そうな言いようをしていやがったのはよ。
さぁて、そんな惨い言いようをした鬼なぞ知らんなぁ…だなんて。
お膝にちょこりと座らせた、小さなくうの毛並みを撫でながら、
澄ましたお顔でやり返していたお館様だったのは昨夜のお話。

  「せ〜な、おやかまさまは?」

無邪気に訊かれて、
「ん〜? 今日はね、ご出仕の日だから宮中においでだよ?」
秋の定例祭事でもある“新嘗祭”の打ち合わせ。
帝が神様へ秋の収穫を報告する儀式のことで、
言わば“国事”でもあったりするので、
こればっかりはどうしても外せぬ顔合わせだとか。
だというのにも関わらず、

  『あ〜あ、かったるいったらありゃしねぇ。』

いかにも不承不承という雰囲気満載の、
憂鬱そうな顔つきで出掛けて行った、金髪痩躯の術師であり。
『ほれ、トカゲ。大手門まで付き合え。』
『わ〜かってるから。蹴るな、いちいち。』
相手を選んでの八つ当たりで留めたあたりは、一応“大人”を保っていたが、
“相変わらず、貴族の方々がお嫌いだから。”
さぞや不快指数の上がるお出掛けなんだろなと、
ともすれば滸がましくも同情していたセナくんであり。

  「ごちゅっち? ちゅーちゅー?」

こちらさんも相変わらずに、まだまだ舌が回らぬ くうちゃんが、
小首を傾げながら覚束ない言いようにて訊き返して来たのへは、
「いやあの、ご出仕で…ちゅーちゅーってのは何?」
宮中だ、セナくん。
(笑)
お出掛けになられたのは朝餉のすぐ後だったのにね。
その時にも同じこと、しきりと訊いてたくうちゃんであり、
「くうちゃんはお館様のこと大好きなんだね。」
だから、今ここにおいででないのが寂しい。
そうなんでしょ?と訊いたれば、
「うっvv 大ちゅきvv
いかにも楽しそうに大きく頷いて、それから、
「とと様もちゅき、せ〜なも、ちゅきがみもちゅきvv
おやおや、進さんまで引っくるめて好きと来ましたか。
「そっか、大好きかvv
こんな愛らしい童から、にゃは〜vvと満面の笑みにて言われては、
悪い気なぞ起きようものかで。
ただまあ、セナとしてみれば、

  “…せめて進さんへの呼び方は変えてほしいかな。”

ささやかながら思ってたりし。
(苦笑)
ふにふにと瞼が重たげな、小さな仔ギツネ。
小さなお兄さんのお膝に凭れると、
暖かい手がいい子いい子と撫でてくれるのへ、素直に意識を手放して。
ゆらゆら揺れてるお尻尾も、やがてははたりとお尻へ落ちる。
お館様がそれは賑やかしく戻って来られる日暮れ時まで、
ゆっくりぐっすり、おやすみね?





〜Fine〜  06.11.21.


 *秋もいよいよ深まって来ましたね。
  お館様以下、相変わらずの面々みたいで、
  皆様も、暖かい冬支度、どうかつつがなくお進めくださいませです。



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